コンテンツへスキップ

ホームステーキングまとめ

(最終更新2024年10月28日)

目次

イーサリアムのステーキングとは

イーサリアムは、合意形成アルゴリズムとしてPoS(プルーフ・オブ・ステーク、”担保金による証明”)を採用しています。この仕組みでは、取引を記録する「バリデーター」が担保を預け、もし不正行為をするとその担保から罰金が差し引かれますが、正確な記録を続けると報酬が得られます。罰金が抑止力となり、不正行為やネットワークへの攻撃が防止されています。

イーサリアムは2015年に一般公開されましたが、当初はビットコインと同じPoW(プルーフ・オブ・ワーク)という合意形成アルゴリズムを使用していました。PoWでは、膨大な計算処理を最初に終えた「マイナー」が取引を記録する権限を持ちます。不正取引を記録しようとすると報酬が得られず、消費した電力が無駄になる仕組みです。

2020年12月、イーサリアムにPoSチェーンが導入され、約2年間はPoWとPoSのチェーンが共存しました。その後、2022年9月にすべての機能がPoWからPoSへと移行し、PoWは廃止されました。この完全移行は「マージ(The Merge)」と呼ばれ、仮想通貨界隈で大きな注目を集めました。この過程は、飛行機のエンジンを空中で交換するような難易度だったと言われています。2014年に公開されたイーサリアムのホワイトペーパーでPoWからPoSへの移行が予告されていましたが、実現までには8年の歳月を要しました。

ステーキングの選択肢

イーサリアムのバリデーターを運用するためには、バリデーターごとに32ETHの担保を提出する必要があります。32ETHを単独で用意してバリデーターを運用することを「ソロステーキング」と呼びますが、2024年10月時点の価格で32ETHは約1200万円に相当し、ソロステーキングが可能な人は限られています。そのため、イーサリアムでステーキングしている大多数の人は企業か個人に委託しています。

企業に委託する場合、海外ではコインベースやバイナンスが主流で、日本ではSBI VC TradeやBITPOINTなどがイーサリアムのステーキングサービスを提供しています。これらの企業は、顧客から集めた資金で複数のバリデーターを運用し、手数料を差し引いた報酬を顧客に分配しています。

企業ではなく個人に委託する際は、資金を持ち逃げされないようにスマートコントラクトを利用することが一般的です。ETHを預ける代わりに、LSD(Liquid Staking Derivatives)トークンを受け取り、このLSDトークンを保有しているだけで、世界の誰かが代わりにバリデーターを運用してくれます。主要なLSDのプロトコルには、Lido(LSDトークンはstETH)やRocket Pool(LSDトークンはrETH)があります。

本記事では、ソロステーキングおよび、LSDのバリデーター運用(世界の誰かから資金を預かってバリデーターを代わりに運用する側)を、自分の家のパソコンで実施する「ホームステーキング」の方法を解説しています。

ホームステーキング種類必要なETHETH利回り(年)
ソロステーキング32約3%
Rocket Pool8約3.9~4.26%
(ソロステーキングの1.3倍~1.42倍
Lido CSM1つ目は2.4、以降は1.3約5.1~7.05%
(ソロステーキングの1.7倍~2.37倍
NodeSet Constellation
※NodeSetメンバーのみ
0約0.0627ETH/バリデーター
(担保がいらないので利回りの概念がないです)

LSDのバリデーター運用では、他人から預かったETHに発生するステーキング報酬の一部を手数料として受け取れるためソロステーキングよりも利回りがよくなります。例えば、460万円をLido CSMでステーキングした場合、バリデーターを8個(11.5ETH分)稼働でき、利回りは6.7%となり、年間報酬は30万円ほどになります。(1ETH = 40万円として計算しましたが、ETHの価格の変動によって元本の円に対する利回りは変動します。ETHの価格が1.2倍になれば元本の円に対する利回りも1.2倍になります。逆もしかりです。)

Lido CSMとRocket Pool以外にもバリデーター運用が可能なLSDはあります。なぜこの2つを選んでいるかというと、バリデーター運用が可能なLSDの中でマーケットシェアがTOP2だからです。流動性が高いほうがバリデーターは立てやすいですし、預かり資産が多いということはプロトコルの信頼の表れでもあります。

基本的な設定は全て解説していますが、他の日本語の記事や、有名な英語の記事(CoinCashewSomerEsat)と照らし合わせながら実施してください。ステーキングは何があっても自己責任でお願いします。絶対にHoleskyテストネットで一通り練習した方がいいです。Holeskyテストネットでの設定方法は手順に併記しています。HoleskyテストネットのETHは無料で色んなサイトが配ってるのでHolesky faucetでググってください。

ホームステーキングのメリット・デメリット

ホームステーキングをするメリットは以下のとおりです。

  • 約3%~7%の年利報酬を得られる:ソロステーキングは、担保のETHに対して年利3%くらいの報酬を期待できます。ネットワーク全体の総バリデーター数とチェーンアクティビティの活発度によって変動しているため、現状はここのオレンジの線を確認してください。運良く高額なMEV報酬を貰うバリデーターがいるため、平均値であるオレンジの線より中央値はもう少し低くなります。バリデーターがオフラインになると罰金となり、オンライン期間とオフライン期間が半々くらいであれば年利報酬がプラマイゼロになります。
    LSDのバリデーター運用はソロステーキングより資本効率が上がるため、ソロステーキングの1.3倍から2.35倍くらいの利回りになります。LSDのバリデーターは頻繁にオフラインになるとプロトコルから強制退出させられるため、バリデーターをオフラインにしすぎないように注意してください。

    ソロステーキングの報酬には、(A)常に貰える報酬と(B)ブロック生成をすると貰える報酬があります。
    (A)ブロックの中身を認証することで貰えるattestation報酬です。全てのブロックを認証するわけではなく、6.4分(1エポック = 32ブロック)に1回認証します。また、確率は低いですが27時間毎にランダムに選ばれる512個のバリデーターはsync committeeという役割を果たします。1つのバリデーターあたり約7年に1回選ばれる程度ですが、選ばれた際はattestation報酬が27時間約50倍になります。
    (B)ブロック生成をするバリデーターはランダムで選ばれているため、貰えるブロック生成報酬には大きな個人差があります。平均で1つのバリデーターあたり150日に1回ほどブロック生成できます(現役バリデーター数1,074,000 ÷ 1日のブロック数7,200)。運が悪いと1年以上ブロック生成できない場合もあります。1回のブロック生成で1ETH以上の高額MEV報酬を貰える可能性がありますが、確率としてはとても低いので宝くじ感覚で楽しみにしておきましょう。
    まとめると、ソロステーキングの正確な報酬内訳は(attestation報酬 * オンライン割合 * sync committee倍率) + (proposal reward + whistleblowing + fee + MEV)となります。attestation報酬は常に貰え、後半の4つはブロック生成時に貰えます。
    LSDのバリデーター運用の報酬は、プロトコル全体で報酬をプールした後に配分されるため、ソロステーキングよりもバラツキが少なくなり、比較的安定した利率の報酬を貰えます。
  • イーサリアムのセキュリティを上げることに貢献する:個人でバリデーターを運用する人が増えるとイーサリアムのセキュリティは上がります。単なる投資手段としてステーキングする人には関係のない話かもしれません。
  • サーバー知識が増える:家のパソコンをサーバーとして設定するため、Linux等のサーバー知識が増えます。仕事や副業に活かせるかもしれません。
  • 楽しい:個人的な意見ですが結構楽しいです。ネットワーク保全に関与している誇らしさを感じるだけでなく、証券会社や銀行に頼らずに配当所得のようなものを得ている斬新さや、最新の技術に触れているワクワクを感じています。

逆に、ホームステーキングのデメリットは以下の通りです。

  • まとまった資金が必要:ソロステーキングでは1つのバリデーターあたり32ETHの担保が必要です。LSDのバリデーター運用であっても、最低2.4ETHは自分で用意する必要があります。
  • 担保のETHは引き出しに時間がかかる:ステーキングを辞める際は資金が戻ってくるまでに数日かかります。ステーキングはクリプト界隈で比較的安全に資金を運用することができますが、もっと高い利率で稼げる一部の玄人にとっては機会損失になる可能性があります。
  • 担保のETHを失う可能性がある:複数のサーバーで同じバリデーターを実行するなど、不正とみなされる行為をすると、担保のETHの一部を没収され強制的に退場させられてしまいます。2024年10月現在で過去に強制退場させられたバリデーターは約0.03%(退場数446 ÷ 累計バリデーター数1,617,000)です。この記事の通りに運用していれば問題ありません。
    また、ホームステーキングに限った話ではありませんが、バックアップフレーズを紛失したり、間違った出金先アドレスを登録してしまうなど、暗号資産を扱う上での基本的な所作ができていないと資産を失う可能性があります。ホームステーキングは暗号資産初心者にはおすすめしません。
  • 不定期でメンテナンスをする必要がある:初期設定は記事のとおりにコマンドを実行していくだけで完結します。初期設定が終われば後は放置するだけでいですが、サーバーに不具合が起きた際は復旧しないといけないですし、不定期でクライアントのアップデート等のメンテナンスをする必要があります。自分がメンテナンスに費やしている時間は月に30分程度です。
  • 質の良いインターネット環境を用意する必要がある:初期設定は数日で1TB以上の通信量を消費します。契約しているプロバイダによっては、転送量規制または速度制限が設けられている場合があります。戸数の多いマンションは夜間にインターネット速度が落ちるという話を聞きますし、オンラインゲームや動画視聴を家族全員が同時にするような家庭であれば、家にサーバーを立てても問題なく動作するかテストネットで確認した方がよいです。
  • 機器代と電気代がかかる:パソコンの機器代として8~15万円の初期投資が必要です。また、パソコンを24時間365日つけっぱなしにするため、月に数百円程度の電気代がかかります。パソコンの機器代と電気代、およびインターネット代の一部は確定申告の際に経費として計上できます。

ホームステーキングに必要なもの

ホームステーキングは一般的なパソコンがあれば十分です。自分はテレビ台にミニPCを3台設置しています(2つがメインネット用で、1つがテストネットとクリプト以外の用途)。パソコンの中に担保のETHが保管されているわけではないので、このパソコンは壊れたり盗まれたりしても大丈夫です。

具体的に、ホームステーキングに必要なものは以下の通りです。

  • 担保のETH:ソロステーキングであれば、バリデーター1つあたり32 ETHが担保として必要になります。LSDのバリデーター運用であれば、プロトコルによりますが最低でも2.4ETHは必要です。
  • サーバーとして使用するパソコン:バリデーター数とCPU負荷が比例するのは64個まで且つ64個運用してもそれほどCPU負荷が高くないため、サーバーとなるパソコンは1つあれば十分です。普段使いのパソコンを併用するのではなく、ステーキング専用機を用意してください。推奨性能は以下の通り。
    ■ 目安としてPassMarkが5,000点以上のCPU(消費電力を考慮してTDPが30W以下のCPUをオススメします。自分はRyzen 5625U、Ryzen 4700U、Ryzen 4300Uの3台を稼働していて、いずれもTDPが15Wです。)
    ■ 4TB以上のSSD(HDDは遅すぎて使えません。速度が遅いSSDもあるので動作確認ができているものにした方が安心です。まだ2TBでも足りますが、数年後には4TBが必須になりそうです。自分はSAMSUNGの990 PRO、970 EVO Plus、870 EVOを使ってきました。)
    ■ 16GB以上のメモリ(32GBあればスワップ領域を無効にしてSSDの発熱を抑えられます。)
    ■ OSは不要(無料のUbuntu Serverを使います。)
  • サーバーとして使用しないパソコン:普段使いのパソコンでよいです。インターネットに繋がっていれば性能はなんでもいいです。WindowsでもMacでも大丈夫です。ブラウザでETHを送信したり、サーバーを遠隔操作するのに使います。
  • モニター:サーバーの初期設定が終わるまでは遠隔操作できないためモニターが必要です。HDMIケーブルが繋げられるのであればテレビでも大丈夫です。
  • ご自身のインターネット環境:ルーターの設定をいじったり、大量のデータを安定して通信したいので公共インターネットでは厳しいです。
  • USBメモリ:Ubuntuのインストールメディアを扱うので8GB以上だとよいです。パソコンで読み込めるのであればSDカードでも大丈夫です。
  • 有線LANケーブル:インターネット接続は有線LANを使ったほうが楽ですし、Wi-Fiよりも通信障害が起きにくいです。

サーバーのソフトウェア構成設定

Ubuntu Serverをインストールしたパソコンで、以下のソフトを常時起動させておく必要があります。

  • 実行クライアント:イーサリアムの全トランザクション(取引)データです。常に最新のトランザクションが同期されるようにします。
  • ビーコンノード:バリデーターに仕事を割り振るために使われる出勤簿のようなものです。コンセンサス(合意形成)クライアントの機能の1つです。常に最新の情報が同期されるようにします。
  • バリデーター:トランザクションの記録係です。コンセンサス(合意形成)クライアントの機能の1つです。バリデーターがオンラインであることによって報酬をもらえます。前提としてビーコンノードと実行クライアントが最新の状態に同期されている必要があります。
  • MEV-Boost:ブロック生成時にブロック内に含めるトランザクションを外部に選定してもらう機能です。使用するとブロック生成報酬が上がります。

上記をまとめてインストールしてくれるソフト(Ethdockerなど)は便利ですが、仕組みをちゃんと理解していないと設定不備や攻撃ベクトルを増やしてしまうことになりますし、細かい設定調整がしにくいため、1つ1つ手動で設定していきます。

ホームステーキングの詳細手順

ここからは、ホームステーキングの種類ごとに設定方法を説明していきます。どれか1つ、またはどの組み合わせであってもちゃんと動くような手順にしています。ダウンロードの待ち時間を含めると2日くらいかかります。実際の作業時間は5時間もないと思います。慣れるとトータル2時間くらいの作業量です。

ホームステーキング種類必要なETHETH利回り(年)
ソロステーキング(①)32約3%
Rocket Pool (②)8約3.9~4.26%
(ソロステーキングの1.3倍~1.42倍
Lido CSM (③)
※EA期間(一般公開前)
1つ目は2.4、以降は1.3約5.1~7.05%
(ソロステーキングの1.7倍~2.35倍
NodeSet Constellation
※NodeSetメンバーのみ
0約0.0627ETH/バリデーター
(担保がいらないので利回りの概念がないです)

Tip ETH: 0x8788149BB81366bef2FF767a477298f363B6d3Cb